円成寺蔵 木造大日如来坐像 模刻制作
文化財保存学専攻 保存修復(彫刻)  藤曲 隆哉


【研究目的】

平安時代最末期に制作された大日如来坐像の傑作「円成寺蔵・木造大日如来坐像」の模刻制作を通して、本像の造形性を学ぶ事を研究の目的とする。実像は漆箔像であるが、平安時代後期より慶派仏師に多く見られる、体幹部を正中に矧ぐ寄木法とともに、条帛を別材製で矧ぎつけるといった本像の特異な造像技法と構造を解りやすくするため、本研究では木地制作段階による発表を行う。また、本像欠失部である裳先、垂髪の復元を試みる。

【本像について】 

本像は、奈良県にある忍辱山円成寺において多宝塔の本尊として祀られている。台座蓮肉内側の作者直筆と見られる墨書銘が、1921年(大正十年)の美術院による修理時に発見され、墨書内には1176年(安元二年)に造像された事が記されており、今日では鎌倉時代に活躍した仏師運慶の最も早い作例であることで知られている。本像は造像当初、後白河法皇の寄進により1176年(安元二年)に建立された多宝塔に安置されていたと考えられる。

【形状】

髪は高い宝髻を上端正面で花形にまとめる。白毫相をあらわし、玉眼を嵌入する。条帛をつける。両手を屈臂し智拳印を結ぶ。腰より下に裙と腰布をつけ、右足を外にして結跏趺坐する。

・法量 像高 98.9cm  膝張 74.0cm 像奥 54.5cm
・構造 檜材寄木造り。頭体幹部を左右二材で正中に矧ぎ寄せ、割り首にする。膝前部別材。両腕部を矧ぎ寄せる。条帛を別材で矧ぎつける。布貼り漆箔。玉眼嵌入。天冠台は銅製の鋳造鍍金。宝冠、腕釧、臂釧、胸飾りは銅板製鍍金。

【制作工程】

1 木取り 材質は檜を用い、実像にできるだけ近い形での木取りを試みた。木取りは大きく分けて体幹部(左右ニ材)、膝前、三角材、裳先、腕部(左右各三材)、条帛、髻、垂髪、鬢、で構成される。
2 粗彫り 檜材寄木造り。頭体幹部を左右二材で正中に矧ぎ寄せ、割り首にする。膝前部別材。両腕部を矧ぎ寄せる。条帛を別材で矧ぎつける。布貼り漆箔。玉眼嵌入。天冠台は銅製の鋳造鍍金。宝冠、腕釧、臂釧、胸飾りは銅板製鍍金。
粗彫りをする上で、体幹部材を左右で寄せることによって決して消えることの無い、彫刻の正面、背面に生じる正中線をたよりに彫り進めた。
3 内刳り 粗彫りがおおよそ終了したところで、干割れを防止するために内刳りを行う。
4 小造り 小造りには、粗彫りのときのような刃幅の大きな道具だけではなく小道具や小刀などを使い、細部を彫出してゆく。彫刻面がある程度決定したところで再度、内刳りも進める。
小造りから仕上げに移る段階で割り首を行う。
5 仕上げ 条帛や垂髪などを別材で彫出し矧ぎ付けてゆく。

【制作所見】

 体幹部材に、図1の様なL字型の二つの材を使用している。この工法は、制作する側の視点から考えると材料の無駄が多く合理的ではない。木寄せにおいて作者は当初、体幹部材に図2の様な上腕部を含む24×30(cm)の檜材を左右二材使用したと思われるが、制作途中に腕部の角度等に大きな変更があり、大胆にも体幹部の大部分を切り落とし、両腕部が現在の位置で矧ぎ直されたと推測できる。寄せ木造りが主流となっていた本像の制作時代においては、できるだけ材料を節約し、合理的に作られる事が求められていたと考えられるが、それは本像の持つ、体幹部材から腕部にかけての美しい構成を探った作者の造形に対する試行錯誤の痕跡ではないかと模刻研究を進めて行く中で感じた。

 さらに本像の構造として特筆されるのは、上半身を裸形につくり、そののち条帛をすべて別材で矧ぎ付けていることである。矧ぐというよりはまるで木の衣を着せているかのような構造だが、作者がなぜそういった制作法をとったのかは全くの疑問である。模刻制作の体験からするとそういった工法は手間が多く、この大日如来像を制作するほどの仏師ならば条帛を彫出し制作することは容易であり、制作上の都合以外の目的意識があったと考えられ、とくに類似した作例として中尊寺の一字金輪像が条帛のみを別材で矧ぎ付けている。条帛の矧ぎ付け部は制作上どのような仕上げの処理を行ったかはいくつか疑問の残るところがあるが、それらの作者の突出した技術を示す製作技法と、この大日如来像の造形に対する一つ一つの細部に至るままでの執着は異常なものである。

【まとめ】

 模刻制作過程のなかで最も大きな経験のひとつは、数十日の間、実像を目の前にして制作ができた事である。実像から直接受ける印象や造形の凄みは、写真やどんなに精緻なデータからも抽出する事のできないものであった。裳先や垂髪の復元箇所は未だ研究の予知がある。木寄せから割り首など、仏像の制作上当たり前に行われる技法であるが、私にとっては初めて行う作業ばかりで、模刻制作による経験と発見を通して、運慶の大胆な制作を少しでも追体験しているかのような制作をすることができた。

【謝辞】

 本研究に際し、円成寺住職・田畑祐弘様と奥さまの紀子様、また財団法人美術院理事・小野寺久幸先生、同所長・藤本一先生、同・松永忠興先生、そして愛知県立芸術大学教授・山崎隆之先生、本学古美術研究施設講師・矢野健一郎先生、同・熊田由美子先生、財団法人史明会・大門正佳様、同・大門弘尚様、株式会社岡村印刷・岡村元嗣様、同・中塚靖様、同・山田修様はじめ、ご指導ご鞭撻を頂いた多くのみなさまに心より御礼を申しあげます。ありがとうございました。

【参考文献】

・西川新次 編 「大和古寺大観 第四巻 新薬師寺 白毫寺 円成寺」
 1977 岩波書店 

・井上正 他編 「日本彫刻史基礎資料集成 平安時代 造像銘記篇 第四巻」
 1967 中央公論美術出版

 図1
図2
体幹部矧ぎ目
 当初の体幹部材