西山氏所蔵 平安初期不動明王坐像 模刻制作
文化財保存学専攻 保存修復(彫刻) 大塚 亨 
 
 高知県指定文化財1963年7月5日指定
・法量   像高88.8cm 髪際高76.3cm 像奥50.3cm 肘張58.0cm 膝張68.0cm
・材質構造   桜材 一木造り 彫眼 彩色

はじめに
 平安初期は密教が空海により中国から伝わって、多くの密教仏像が造られた。この時期の仏像は多種多彩な表現がなされ、生み出されては消え、消えたものをまた表現し、模索をしながら造像された時代である。一木造りにおいても特徴のある構造が生み出され、それらは繊細であり、力強くたくましいものでもあった。
 そのことから本研究は、模刻制作を通して平安初期不動明王坐像の造形及び技法の研究を目的とし、追体験を行う事で、当像の形体や表現を捉え、平安初期にみられる一木造りの造像技法について考察を行うことにした。

本像の形状・構造について
 右手に宝剣、左手に羂索を持つ。頭部は頭上に小蓮華を置き、総髪をなだらかに束ねて弁髪を左に垂らし、やや右に振られ右下方を凝視しする。顔は正眼であり、両目を見開き、上歯を出して下唇を噛み牙を下に出す。一木造り(注1)であり、体幹部を縦一材・肩先・手首・横一材の膝前を矧ぐ。右脚付根部の三角材・耳部・持物・両手・光背・瑟瑟座は後補である。
 制作年、作者、伝来については不明であるが、木寄せの構造や膝前部の衣紋、面部両眼の造形的特徴等から平安初期の尊容を色濃く残す像である。

制作にあたって 
 当像で注目したのは、体幹部の膝前接合面が腹部面より一段彫り下げられ、膝前との接合により腹部の彫り込まれた面が膝前に隠れている事である(図1)。同時期の一木造りにおいても、同様の接合面を持つ像や大工の組み手の様に一段彫り下げて接合されている像が多く存在する。今回の模刻制作ではこの接合面を考察していくとともに、欠損した部分や摩耗した量を彫刻的造形性の視点で復元を行うことにする。当大学資料として本像の石膏レプリカがあるため、それを参考に制作を進め、また素材に関しては、同等の桜材は入手困難なため桧材を用い、体幹部計4材を矧ぎあわせ一木造りにみたて制作を行う。

実際の作業について(作業工程)
1.木寄せ:体幹部4材、三角材2材、膝前2材で矧ぎ付けた。材の制約上、まち材を矧ぎ付けた。
2.木取り:動かさない基準を腹部に設け、その基準から背面・前面の量を計測し、基準面を増やして、その面から像全体の量のバランスや位置を決めた。
3.荒彫り:体幹部を中彫りまで仕上げ、同時進行で膝前の荒彫りを行い、体幹部と膝前の接合面を決め た。体幹部の進み具合に合わせ、腕の荒彫りに取りかかった。この時点にて、像全体のバランスを観察するために仮止めを行い、制作を進めた。
4.中彫り:像全体のバランスや量感が重要だと考え、ほぞによる固定で膝前、腕の位置や角度を決定した。
5.仕上げ:手の感触や目視の観察により、量感を意識した形を捉えて彫り進め、欠損した量、衣紋、小蓮華、右手、持物の一部想定復元を行った。

考察
 当像で注目していた体幹部と膝前の接合面については、下腹部の立体を深く彫ることで腹部の張りを実感する事ができ、膝前との接合面をあえて一段下げたと確認する事ができた。このような構造の比較として(図2,3)等、他の作例から、平安初期〜中期の像に、接合面を抱き合わされているものや、咬み合わせる形のものが存在し、複雑に進化してきたことが分かった。また内刳りを施していない体幹部材の重量を支え、前に倒れ込まないように構造的強度をつけるものではなかったのではないかと推測でき、一木造りの一種の技法であったと言える。当時の仏師達が造像技法について試行錯誤しながら造立していた事が伺え、以後確立される寄せ木造りに進化していく過程の一端を垣間見る事ができた。
 鑿や刀で彫り進め仕上げていく過程において、体部に張り付いた衣紋の流れやダイナミックな量感を追いかける事で、強い張りや柔らかいフォルムが写実的に造形されていることを実感できた。それにより、おのずと足りない量や動きが推測でき、所々に残された衣紋の返りや形の張りを意識することで欠損や磨耗した量を当初の形態に復元し制作を進めることができた。同様に後補箇所の左手部、欠損している右手部も想定復元する事ができた。
 体幹部と腕の接合部分については、量の流れが不自然に途切れていることから、当時は別々に制作をしていたと推測した。しかし、模刻制作では部分ごとで制作を行うと、全体の流れや量を捉えることが難しく幾度の失敗の結果になった。よって常に全体を確認しながら量の張りや細部の制作をしていかなければと強く実感し、これからの制作の課題になった。 

おわりに
 今回追体験を行うことで、本像の深い造形性を学び知ることができた。また本像は無名であるのにかかわらず、当時の彫刻技術の高さや先人の知恵を垣間見ることができ、彫り終えてもまだ追い付くことができないぐらい大きなものに感じられた。初めての仏像彫刻制作であったが、いままで学んできたものとは違う、新たな発見や技術を体感した。この経験を基にさらなる技術や彫刻制作に発展していきたい。