一木造り彫像の制作技法研究 ―唐招提寺 如来形立像 模刻―

文化財保存学専攻 保存修復(彫刻) 土屋 仁応

● はじめに 
一木造りとは、像の頭部から躯部までを一材から彫り出す木造彫刻の技法である。 平安時代前期にはこの技法による造像が盛んに行われていた。本研究では、平安時代 前期の作風を色濃く遺す傑作として知られている「如来形立像」の模刻制作を通し、 一木造り彫像の制作技法を探ることを目的とした。模刻には、研究室に保管されているこの像の石膏コピーを参考にすることが出来た。

● 本像について
 本像の伝来についての詳細は不明である。両腕を屈臂し法衣を着けて直立する如来像 で、頭部、両腕先、両足先は失われている。榧材の一木造りで、像のほぼ中心に木心 が通っている。背面上下二ケ所に開けられた長方形の窓から内刳りがされている。抑揚に富んだ肉感的な躯部と、丸みのある大波と鎬を立てた小波とが交互にあらわされる翻波式衣紋が特徴的な表現となっている。像表面には漆下地が施された上に朱や緑青のような顔料が見られることから、彩色像であったことが想像される。

● 制作について
<1>木取り…像の大部分を一材から木取りすることがこの技法の大きな特徴である。そのため模刻像の制作にあたっても本像と同じく榧の一材から木取りすることが理想だったが、大材を得ることは困難だったため、入手できた直径約40cmの榧の丸太を中心に、両側に縦挽きした材を剥ぎ足し、一木に近い木取りができるよう工夫した。
<2>粗彫り …木取りができたところで、丸鑿や平鑿を使っておおよその形を彫る行程に入った。 模刻制作では、像の正面と側面の型紙をつくり、これを参考におおまかに量を落とした後、星取り機を利用して粗彫りを進めた。星取りによって立体を合理的に写し取ることができることがわかったが、今回の模刻制作では星取りした一点一点にばかり気を留めてしまい、全体としての勢いに欠ける平面的な粗彫りとなってしまった。このことで、像の部分ごとの量感を出すのに後々苦労した。星取りの点を目安にしながらも、直彫りするときのように、像の中心線や鑿で落とす限界線に墨をひいて確認しながら、像の動勢に注意して粗彫りをすすめることの重要性を痛感した。
<3>内刳り…一木造りでは乾燥していく際の干割れを防ぐため、内側からも乾燥するように背中から内刳りがされる。模刻像でも本像と同じように内刳りをしたが、激しく干割れが生じてしまった。材の選択や木取りに問題があったことや、彫る前の乾燥が不充分だったことなどが原因として考えられるが、逆に、造像から千年以上も経過している本像には細かな干割れしか生じていない。改めて、作者の木材に対する深い理解に感心した。
<4>小造り…鑿でおおよその形ができたところで、彫刻刀を使ってさらに細かい形を造る行程に入った。鋭さと柔らかさを持つ衣紋線を刻むためには、えぐるために鋭く尖らせたり、すくうように削るために丸くしたりというように、形に沿わせて彫刻刀を 研ぎ直し調整しなければならなかった。また欠失している両手足部分や磨耗している衣紋の峰などは再現しない計画だったが、それらを粗彫りの段階から取り去ってしまったことで形の繋がりが分かりにくくなり後悔した。周辺部分から想像できる欠損部は、一度造ってから最後に破損したように取り去るべきであった。
<5>仕上げ…彫刻刀で丹念に形を追って彫り上げた後に、漆下地や漆箔、彩色などを施して像は完成する。模刻制作では一年間という期間の関係から木彫部分の仕上げまでを目標にした。像全体の流れるような翻波式衣紋は体躯の誇張された量感を引き締め、その迫力をより一層際立たせている。模刻でその印象に近付けるよう努力したが、単に凹凸を写しただけでは溝が刻まれるだけで衣の襞のようには見えない。薄くやわらかな衣の襞のひとつひとつが、垂下がったり、引っ張られたり、風になびいたりしながら、内側の丸みのある肉身部の動きや量感をも的確に表現している。しかしほんのわずかな厚みや角度の変化で、その印象はまったく違ったものになってしまう。作者の圧倒的な表現力に改めて感動したとともに、自らの技術では到底表現しきれないことが悔やまれた。

●おわりに
実際の模刻制作に取り組むなかで、腰の左側をわずかに前に突き出すよう なゆるやかな動きなどからは、人体の動きをよく観察し造像されたように感じられた。 生身の人間のような自然さと、強調された量感、整然と刻まれた衣紋、それらが一木 という素材の存在感を活かしてあらわされることで、人間を越えた迫力ある表現とな る。衣紋のひとつひとつの形の変化を丹念に追っていくうちに、写実を越えて強いイ メージをつくりだそうとした作者の意志が伝わってくるような気がした。この貴重な 経験を自らのひとつの基準として、今後更なる研究と技術修練に取り組んでいきたい と思う。

● 参考文献「奈良六大寺大觀 唐招提寺」 岩波書店 1972年「魅惑の仏像7 十一面観音 滋賀・向源寺」 毎日新聞社 1993年