Online Lecture 15

東京芸術大学蔵木造大日如来坐像制作工程

平成22年度 本研究室非常勤講師 三浦康道

原本像・東京芸術大学蔵木造大日如来坐像について

 原本像は本学所蔵の快慶作例であり、建仁3年(1203)以前の作例と判明している鎌倉時代初期の基準作例である。像内に「アン(梵字)阿弥陀仏」の造像当初の墨書きがあり、これが仏師快慶を指している。
 その構造は、頭と胴体部分をヒノキ材の1材(木芯を背中側に含む)から彫り出すもので、両脚部1材で彫り出すほか、両腕を肩・肘・手首で分けて彫り出している。本像には「割矧ぎ」と呼ばれる技法が用いられている。この技法は、ある程度彫りあがった段階で像の前後あるいは左右で一旦割り離し、像内を内刳りするなどの工程を行っている。また「割り首」と呼ばれる技法も用いられており、首の付け根から頭部を割り離し、彫刻作業が進めやすい工夫がなされている。これらの技法は、木の繊維方向に沿ってきれいに割れやすいヒノキ材などの針葉樹材の特性をうまく生かしたものであり、割れ目も再びきれいに接合することが容易である。また本像には、鎌倉時代の特徴的な技法である玉眼(水晶製のレンズを造って内側に瞳を描き、頭部の内側からはめ込む技法)も施されている。
 なお、本制作工程模型では同像を原本とし、1/2スケールに縮尺模刻を行った。
 さらに各工程を木取り粗取り粗彫り仕上げ[素地]の4つに大きく分け、割矧ぎ造りによる造像技法を平明にあらわしたものである。
 原本像と制作年代の近い快慶作例としては、石山寺(滋賀)大日如来坐像などがあり、両像は細部に至るまで類似する点が多く、制作年代もほぼ同じ頃のものであることが指摘されている。

木取り(図1)
 木取りとは、木材から、仏像に必要な寸法を切り出す工程である。
 平安時代後期に流行した定朝様などの様式が伝播した背景には、仏像のプロポーションが一定の法則によって造られ、用材の規格化もなされていたと考えられている。
 原本像も鎌倉時代初期の大日如来坐像、特に快慶の様式を色濃く示した作例であり、この時代特有の現実感のある写実的な表現となっている。
 この工程では、原本像の基本構造の法量(仏像の寸法。今回の模型は1/2スケールのため像高が約52.6?に縮小)に合わせて製材し、組み合わせたものである。石山寺像が頭体の主要な部材を左右2材で構成しているのに対し、本像は木芯を後方にずらした1材で頭体幹部を彫り出していることから、比較的一木造りに近い木取りであったことがうかがわれる。

図1 工程模型(木取り)

粗取り(図2)
 この工程は、大まかに余分な材を切り落としていく工程である。
 この段階で完成時のアウトラインに近い位置まで削り落とすことで、像全体のバランスや彫刻していく上での基準が定まる。この工程を丁寧に行うことで、彫り過ぎを防ぐガイドとなるアウトラインが整い、以降の彫刻作業を迅速に進めることが可能となる。
 また大まかな形の基準となる目や鼻、髪の生え際や衣のラインなども定めていく。

図2 工程模型(粗取り)

粗彫り(図3)
 粗取りによって像全体のバランスや基準が定まると、さらに形を明確に彫り出していくのが粗彫りの工程である。
 この工程で完成像のイメージは、ほぼ決定する。作業上の留意点としては、完成時のアウトラインをなぞるような意識で彫り進め、粗取りでは削り落とせなかった余分な箇所を3次元的に大きく削り落とす。
 粗取り・粗彫りによって概形があらわれたところで、前後あるいは左右に割矧ぎ、内刳り(図4)を行う。そのほか細部(衣紋や眼・耳・鼻などの形)も決定していく。
 この工程で割首(図5)も行い、材の歪み抑制や細部の彫刻を進めやすくすることが多い。

図3 工程模型(粗彫り)  図4 工程模型(粗彫り)体幹部割矧ぎ箇所および内刳り部分


図5 工程模型(粗彫り)の割首[左:接合の状態 右:取り外した状態]

仕上げ[素地](図7)
 
粗彫り後、細部の彫刻を進め、隅々まで造形の密度を上げていく。原本像には前代・平安時代後期の作風とは異なる、より現実味のある衣紋表現が認められ、なおかつ入念な立体表現となっている。
 玉眼(図8)は仕上げ(素地)を終えた後、内刳り面から、瞳を内側に描いた水晶製のレンズをはめ込む(図9)。さらにレンズの内側に、和紙あるいは真綿を当てて白目などをあらわし、抑え木で固定している。
 また大日如来坐像特有の印相である智拳印(図10)は、本像のように肩、肘などに別材製の板などを挟み込み、3次元的な角度調整を行うことで、右手の握った拳の中に左手の人差し指に差し込むような構造が可能となる(図11)

 
図6 工程模型(仕上げ)   図7 玉眼部拡大写真


図8 玉眼部の内部構造


図9 工程模型(仕上げ)印相部拡大写真

   
図10 智拳印の構造[左から順に]

参考文献
山本勉「大日如来像」(『日本の美術』98)至文堂、1997年。

水野敬三郎「大日如来像」(水野敬三郎他編『日本彫刻史基礎資料集成』鎌倉時代 造像銘記篇 第2巻 収録番号35)中央公論美術出版社、2004年。