Online Lecture 16

平成26年度科学研究費助成事業(基盤研究(B)) 最終報告書
「3Dデジタルデータの仮想立体画像を用いた木取り・木寄せ研究 平安時代初期〜鎌倉期」
研究課題番号24320035 研究期間 平成24年度〜平成26年度
研究代表者 籔内佐斗司

1. 研究開始当初の背景

 2004年以降、当研究室では研究代表者を中心に、国宝・国指定重要文化財等を主とした彫刻文化財の3次元レーザー計測調査、及びそのデータの検証を行い、仏像彫刻史に新たな一局面を切り開く試みを続けてきた。これまで、計測した対象の外形を比較することにより、仏像の作風展開の研究を行うなど1、3次元レーザー計測を使用した新たな研究手法を確立してきた。
 その研究過程において、我々は3Dデータの援用による、新しい研究方法を導き出すに至った。それは、仏像を3Dデジタルデータで投影図化することで、これまで肉眼や写真では見ることができなかった精密な投影立体画像(図 1)を作成し、さらに『木取り2・木寄せ3』のイメージを具体化することで、細密な解析を行うというものである。
 美術史上において『木取り・木寄せ』は、時代区分の重要な要素である4。日本独特の木彫技法である寄木造りの中にも、様々なパターンが認められ、その『木取り・木寄せ』の特徴を検証することで、制作者の意図や制作事情を読み取ることができると想定される。
 本研究はこの点に着目し、『3Dデジタルデータによる木取り・木寄せ(構造)図』を作成し、日本の仏像彫刻史へ一石を投じるべく提案した。

 

図 1 京都府六波羅蜜寺 広目天立像 左:投影図、右:木取り想定図

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1 籔内佐斗司 他「3Dデジタルデータをもとにした快慶的特徴基準の作成?快慶とその周辺への形状伝播?」平成21年〜23年度 科学研究費補助金(基盤研究B)研究成果報告書、2012年。
2 ここでは、丸太から必要な寸法へ製材する工程を指す。
3 ここでは、複数材で構成された木彫像の構造設計を指す。
4 西川杏太郎『一木造と寄木造』(『日本の美術』202)至文堂、1983年。

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2. 研究の目的
 
平安時代〜鎌倉時代の代表的な仏像を、3次元レーザースキャナによる精密な計測と補足的な透過X線撮影によってその構造を調査・解析し、和様の完成『定朝様』や鎌倉ルネッサンスともよばれる『慶派』による新様式が、どのように発生・展開したのかを彫刻の構造を通して比較・検証することを目的とする。

3. 研究の方法
 次項「4.研究成果」に列挙した仏像を中心に、年次ごとに調査を行う(年4回調査で1回の調査につき1〜2体を計測予定)。調査方法としては、3次元レーザー計測による計測と、補足的な透過X線撮影を行う。最終年次には、当研究室に集積された3Dデータや透過X線画像などを用いてCG化し、「3D木取り・木寄せ構造図」を作成する。

4. 研究成果
 これまで、3D未計測の彫刻文化財を主な対象に、研究期間3ヵ年で約11作例の調査を実施した。調査した対象は以下の通りである。

〔平成24年度〕
・高知県 雪蹊寺木造毘沙門天立像(透過X線調査)
・茨城県 東福寺木造地蔵菩薩半跏像
・東京都 薬師寺東京別院(東五反田)木造薬師如来坐像
・奈良県 東大寺中性院木造弥勒菩薩立像
・奈良県 奈良国立博物館木造獅子
・京都府 禅林寺木造阿弥陀如来立像(見返り阿弥陀)

〔平成25年度〕
・奈良県 聖林寺木心乾漆十一面観音立像
・京都府 宝菩提院願徳寺木造菩薩半跏像〈(伝如意輪観音)/(本堂安置)〉

〔平成26年度〕
・奈良県 室生寺木造釈迦如来立像(所在金堂)
・京都府 金剛心院木造如来立像

 このうち、雪蹊寺木造毘沙門天立像は透過X線撮影を行った。これを基に当研究室博士課程の学生が制作した模刻像5を参照し、割矧ぎ箇所まで想定した構造図を作成した。また東大寺中性院弥勒菩薩立像の3Dデータと既得の透過X線画像を照合し、木取り想定図を作成した。

【3Dデータによる木取り想定図】
 奈良時代末期から平安時代初期における木彫像の多くは、一木造りである(一木造りとは、頭体の主要部が1本の木材から彫出される構造を指す)。本研究で調査を行った京都府宝菩提院願徳寺木造菩薩半跏像は、8世紀末から9世紀初めのころの作例で、手先や足先を除く本体の大半を一つの木材から彫出した、一木造りの作例である(図 2)。
 一方、宝菩提院像とほぼ同じころの作例とみられる京都府金剛心院木造如来立像は、3Dデータと熟覧調査から解析したところ、同じ一木造りの構造ではあるものの、この像の特徴である前傾した姿勢に合わせるように、木材を傾けて使用していることが想定された6(図 3)。このように、当該期の一木造りが、単に木材を直立させて彫り出していたのではなく、対象の動きに柔軟に対応し、木材を傾けて制作していた可能性を示す資料が作成できた。

【複雑な木寄せの図示とその構造の解析】
高知県雪蹊寺木造毘沙門天立像の3Dデータと透過X線撮影の解析を行ったことで、割矧ぎ構造も正確に再現した模刻制作(当研究室博士課程の学生による7)が可能となった。その結果、割矧ぎの構造まで明示できる、3DCGを駆使した構造想定図の作成が可能となった8(図 4)。
この予備研究を踏まえ、奈良県東大寺中性院木造弥勒菩薩立像(以下、中性院像という)の構造想定図では、割矧ぎなども簡明に図示できる展開型の構造再現映像を作成した(図 5〜図 10〔図 5〜図 7は像全体、図 8〜図 10は頭部のみ選択し拡大表示したもの〕)。

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5 中村志野「湛慶作雪蹊寺毘沙門天立像の制作工程に関する研究ー神将形像における運慶様の継承と変容ー」東京藝術大学大学院美術研究科 平成24年度 課程博士学位取得論文、2013年。
6 宮木菜月「京都府 金剛心院 如来立像 模刻制作」(『東京藝術大学修士論文要旨 平成26年度』)東京藝術大学大学院、2015年。
7 前掲註5中村論文。
8 今回制作した3DCG構造想定図は、精確な模刻像を計測することにより制作した二次的なものであるが、今後技術の蓄積によって、計測した原本像のデータを直接使用する一次的な構造想定図の制作が可能になると期待できる。

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図 2 宝菩提院願徳寺木造菩薩半跏像      図 3 金剛心院木造如来立像

 この予備研究を踏まえ、奈良県東大寺中性院木造弥勒菩薩立像(以下、中性院像という)の構造想定図では、割矧ぎなども簡明に図示できる展開型の構造再現映像を作成した(図 5〜図 10〔図 5〜図 7は像全体、図 8〜図 10は頭部のみ選択し拡大表示したもの〕)。
 また3Dデータから正確な木材の接合面を導き出し、制作初期段階の構造設計である木寄せや割矧ぎなどの構造を図解した「構造想定図」および「木寄せ・割矧ぎを含んだ構造想定図」(図 11・図 12)を作成した。この3DCG構造図を使用することで、複雑な構造を第三者にも簡潔に伝えることができ、構造に関するより的確で客観的な議論を行うことが可能になった9

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9 本研究室博士課程の学生が、このような図面の利点を活かして研究を行った。小島久典「鎌倉時代の菩薩形像における彫刻制作の計画性とその変更について?東大寺中性院弥勒菩薩立像模刻制作を通して?」東京藝術大学大学院美術研究科 平成26年度 課程博士学位取得論文、2015年。

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図 4 雪蹊寺木造毘沙門天立像

 
図 5             図 6


図 7

図 8
図 9
図 10
 
        図 11 中性院像の構造想定図        図 12 中性院像の木寄せ・割矧ぎを含んだ構造想定図

【総括】
 仏像の構造図を、3Dデータを用いて従来よりも詳細に作成することは、時代的特徴を示す「一木造り」や「寄木造り」などの明快な図示を可能にするだけでなく、当該像がその構造にいたるまでの制作工程を推定するための、非常に重要な要素となる。これを活用することで、「製材」や「割矧ぎ」、「内刳り」「仕上げ」など、各制作工程における構造技法上の第2の特徴ともいえる「造像作業の時系列」を詳細に考察することが可能となり、これまでにない重要な資料作成につながるものといえる。


5.主な発表論文等

〔図書〕(計3件)
『年報2012』 東京藝術大学大学院 美術研究科 文化財保存学専攻 保存修復彫刻研究室、2013年。
『年報2013』 東京藝術大学大学院 美術研究科 文化財保存学専攻 保存修復彫刻研究室、2014年。
【掲載予定】『年報2014』 東京藝術大学大学院 美術研究科 文化財保存学専攻 保存修復彫刻研究室、2015年。

〔その他〕
ホームページ等
東京藝術大学大学院美術研究科 文化財保存学専攻 保存修復・彫刻ウェブサイト
http://www.tokyogeidai-hozon.com

6.研究組織
(1)研究代表者
籔内 直樹(籔内 佐斗司)
(12606)東京藝術大学 (899)美術研究科 (20)教授 研究者番号:10376931

(2)研究分担者
副島 弘道
(32635)大正大学 (201)文学部 (20)教授 研究者番号:20216576

山本 勉
(32632)清泉女子大学 (201)文学部 (20)教授 研究者番号:00150037

武笠 朗
(32618)実践女子大学 (201)文学部 (20)教授 研究者番号:30219844

杉浦 誠
(12606)東京藝術大学 (899)美術研究科 (22)講師 研究者番号:40625589

益田 芳樹
(12606)東京藝術大学 (899)美術研究科 (22)講師 研究者番号:30625596

鈴木 篤
(12606)東京藝術大学 (899)美術研究科 (28)助教 研究者番号:90620873

〔補遺〕
 前記した構造図のほか、本研究において作成した木取り・木寄せを含む構造図を以下に掲げる。
 なお本図は制作開始間もない頃の体幹部周辺の主要材構造図を示した。
前記した構造図のほか、本研究において作成した木取り・木寄せを含む構造図を以下に掲げる。
 なお本図は制作開始間もない頃の体幹部周辺の主要材構造図を示した。

図 13
図 14
図 15
図 16
図 17
図 18
謝辞

 本研究に際し深いご理解甚大なるご協力を賜りました関係者各位に厚く御礼申し上げます。
 雪蹊寺、東福寺、薬師寺東京別院、東大寺中性院、奈良国立博物館、禅林寺、聖林寺、宝菩提院願徳寺、室生寺、金剛心院(順不同・敬称略)