Online Lecture 8

レーザー計測による3Dデジタルデータの模刻制作への活用について

1.はじめに

当研究室では、2004年度よりレーザー計測によって得られる3Dデジタルデータの集積と利用法についての研究を進めている。レーザー計測で取得できる詳細な形状情報は、資料的記録としての仏像様式研究に役立つばかりではなく、当研究室で継続的に行ってきた模刻制作研究への活用も可能であると考えられる。
模刻制作研究は、古典技法の伝承及び解明、修理技術の向上、文化財の資料的現状記録、文化財保護のための代用品、文化財保存の啓蒙活動への利用など、文化財保存修復にとって極めて重要な役割を持っている。
本研究は、当研究室が取得した「興福寺龍燈鬼立像」と「東大寺彌勒仏坐像」の3Dデジタルデータの模刻制作研究への活用を試みたものである。

2.レーザー計測の特徴

今回計測に使用したレーザースキャナVIVID900は、計測対象の表面形状の高精度な3Dデータを取得することができる。レーザー計測によるデータの特徴としては、まず各部位の詳細な計測数値を得ることができ、さらにその3Dモデルに別途取得したデジタル写真を合成することによって、自然な立体像を見せることも可能となり、PC上で任意の角度から観察することができる。
また、合成したデータをもとに透視図や投影図、等高線図を容易に作成することができ、それらの任意の角度からの図や断面図をプリントアウトすることで、正確な図面を取得することができる。
以上のような特性を模刻制作工程の各所で活用し、新たな模刻制作の可能性と3Dデジタルデータの有効性を、実制作を通じて検証した。

3.3Dデジタルデータの模刻制作への活用実践報告

従来の模刻制作では、模刻対象像の目視による観察や写真資料の観察を中心に行われてきたが、おおよその形体把握と印象のみが模刻の基準となっていたため、形状の客観的な検証を行うことは困難であった。
しかし、3Dデジタルデータの誤差の無い客観的情報をいかすことで、より正確かつ効率的な模刻制作を進めることが可能となる。本研究で実践した3Dデジタルデータの模刻制作への活用事例を以下に報告する。

1)レーザー計測で得られた詳細な法量に基づき、無駄のない木材の調達と木取りが可能となった。

■レーザースキャナVIVID900で計測した興福寺龍燈鬼立像の法量 (単位mm)
総高:1368.025 像高:775.594 燈明高:415.782  雲高:64.245 台座高:137.798
像奥:280.835 台座奥:442.605 笠幅:333.604 笠奥:292.095 燈明幅:335.927
燈明奥:296.885 雲 幅:274.268 雲奥:272.215
頂〜顎:161.804 耳張り:156.011 面幅:120.121 面奥:185.613 肩張り:284.815
胸奥:187.004 肘張り:256.472 腹奥:206.486 腰張り:193.194
臍〜台座地付:525.305
足先幅:354.174 足奥:146.071 足内幅:148.163 股下〜台座地付:351.130

興福寺龍燈鬼立像・3D画像
興福寺龍燈鬼立像本体抜き・3D画像
興福寺龍燈鬼立像分解図・3D画像
(2)3Dデジタルデータで作成した投影図を木材に直接貼り付けることにより、的確かつ迅速な荒取り作業が可能となった。また寄木造りでは、矧ぎ面に投影図を転写することで、彫り進めても消えることのない確かな基準輪郭線として活用することができた。

東大寺彌勒仏坐像 投影図
投影図面を活用した
東大寺彌勒仏坐像模刻の荒取り


断面図面を
木材の
内側(矧ぎ面)に
転写



断面図面を基準
として
彫り進める
興福寺龍燈鬼立像の
正中断面線
興福寺龍燈鬼立像模刻像の矧ぎ面

(3)PC画面上での360°にわたる任意の角度からの三次元モデルの観察により、模刻対象像の目視では観察が困難な角度からも形状を確認することができた。

東大寺彌勒仏坐像・3D画像


興福寺龍燈鬼立像・3D画像


(4)3Dデジタルデータの等高線図をもとに、厚板を切り抜いた断面図を集積した簡易立体模型をつくることで、PC画面上では得られなかった立体の把握が可能となった。
 
東大寺彌勒仏坐像の
5mmピッチの等高線図
簡易立体模型の
制作風景
簡易立体模型の制作途中
東大寺彌勒仏坐像の簡易立体模型

(5)等高線図による断面輪郭型紙を用いることで、中彫り段階までの形体確認ができた。
等高線図を利用した断面輪郭型紙
断面輪郭型紙を使った模刻制作風景
4.まとめ

以上のように、3Dデジタルデータの特性を活用することで、木取り・荒取り・中彫りの各制作工程において、迷うことなく迅速な作業を進めることが可能となった。しかし、模刻対象である文化財にはレーザー計測では取得できない質感や空間などの存在感があり、3Dデジタルデータのみでは実像の印象を捉えることは難しい。3Dデジタルデータは、模刻制作において対象像の精神性をくみ取る観察力と模刻制作者の優れた彫刻技術によって、十分にいかされると考える。
今後、レーザー計測機材やデジタルデータ処理ソフトの技術的進化に期待するとともに、3Dデジタルデータの模刻制作への活用の更なる可能性について研究を進めていきたいと考えている。

東大寺蔵彌勒佛坐像模刻 (小林恭子 作)
興福寺蔵龍燈鬼立像模刻 (益田芳樹 作)
謝辞 本研究は科研費(17300288)、財団法人文化財保護・芸術研究助成財団の助成および籔内佐斗司教授の寄付金を受けたものである。
3D画像:東京芸術大学大学院美術研究科文化財保存学保存修復彫刻研究室・株式会社キャドセンターの共同研究より