浄瑠璃寺 灌頂堂 大日如来坐像模刻

文化財保存学保存修復彫刻  井戸 博章 

1、はじめに

 本像は、京都府木津川市加茂町・浄瑠璃寺灌頂堂に安置され、普段は非公開となっていたが、2005〜2006年に文化財保存学において全面解体修理が行われた。私も修理に携わらせて頂いた際に、その造形的美しさは勿論のこと、様々な技術的研究要素に魅せられ、修了制作で本像模刻研究を行うことにした。

2、本像について

<名称> 大日如来坐像

<制作年代> 平安時代末期〜鎌倉時代初期

<文化財指定> なし

<法量(cm)> 像高 60.7  像奥 32  肘張 32.9  膝張 43.6  面長 11.1  面幅 9.6   面奥 13.1 耳張 13胸奥 14.8  腹奥 15.6  体幹部幅 18.1

<形状> 髪部は高髻で、上二条下一条の二段の元結紐であらわし、その上方へ髪を五弁の花形に結い、中央へ七裂界の花系飾りを置き毛筋彫にて彫出する。天冠台は紐二条、上方に開く帯は無文で、その上に紐一条八方花形と続く(大半を欠失する)。耳朶は環状で、耳孔は無い。肩に垂髪を垂らす(左側毛先欠損、右側欠失)。眼は玉眼で、鼻孔をわずかにくぼませる。上下唇の縁どりがみられる。顎の括りをあらわし、三道相を彫出する。条帛を左肩から右脇へ斜めにかけ、左胸前で結び一端を左肩から背面へ垂下する。下半身には裳をまとい、腰で上縁を折り返す。腕は両肘で屈臂し、胸前にて智拳印を結ぶ。

<構造> 木造(檜材)割矧造り、玉眼。頭体幹部は一材より彫成する。前後に割り矧ぎ内刳をする。三道下で二段階に割首する。面部を割矧ぎ内刳を施す。髻一材を矧ぎ付ける。頭頂部に髻を差し込む丸ホゾ(共木)を作り出す。垂髪は首横と肩上の二材を寄せる。背中に薄板一枚を矧ぎ付ける。体幹部右側に1.5cmほどの縦材を矧ぎ、両腰部に三角材を矧ぐ。腕部は左右とも脇から別材を矧ぎ、臂釧部、肘部、腕釧部でそれぞれ別材を矧ぐ。膝前部は横材一材を矧ぎ寄せる。

 

3、研究目標

 浄瑠璃寺・大日如来坐像模刻制作をとおし、木寄せ、割り矧ぎ造り、錐点注1、割り首など、本像に見られる技法構造の研究を目的とした。今回の研究では原本の各技法が確認しうるよう木地仕上げとした。

 

4、制作工程

・粘土模刻、石膏取り

 まず粘土で模刻し、石膏原型を制作した。原本を見ながら制作できたことで、像の纏う雰囲気を肌で感じとれた。またこの石膏像は、荒彫りなどこの後の制作に大いに役立った。

・木取り、図転写

 木取りは、後補と思われる部分以外オリジナル像と同様とした。(図1)図は3Dデジタルデータを実寸大に引き延ばし、カーボン紙を使用して転写を行った。転写後原本と同様に、髪際や顎の先端などに錐点を施す。(図2)錐点を行う事で、座標点が消えることがなく、有効な作業であると感じた。

・荒取り

 全ての材の面に水平線を等間隔に連続して引き、前後左右像の輪郭線3ミリ程余量を残し鋸引きを行った。(図3)全ての面の鋸引きを終えたら、叩き鑿を用い必要ない部分をはつり取る。消えてしまった正中線及び図を、錐点を座標点として再び描き直す。

・荒彫り

 荒彫り作業では、図を貼付け転写を行うのが困難となるため、3Dデジタルデータから算出した大きさや、石膏像及び写真を頼りに彫り進めた。斜め方向の不要部を叩き鑿で大きく量を落とす。更に、角を取り丸めていく意識で行い、基準となる、顔、条帛、足などの形を彫り進める。この段階で髻の丸ホゾも彫出した。

・中彫り

 中彫りでは、全体的な印象をつかみ、形の向きを意識しつつ細部まで彫出する。この辺りから扱う道具も、鑿のほかに小道具、彫刻刀を用いて彫出する。この段階で割り矧ぎを行い内刳を施した。針葉樹の特性を生かした割り矧ぎ造りは、作業効率を上げ、綺麗な矧ぎ目になり、大変有効な技法であると感じた。更に、割り首、面割り、腕の長さ調整も行った。割り首をすることで、体幹部と一体の状態より、頭部のみである方が動かし易く、効果的であった。細部が見えてくると、形の狂いなどに気づきやすくなるので、再び大きく量を取ることもあり、一進一退しながら彫り進めた。

・仕上げ

 仕上げでは、大きな形の狂いなどがなくなり、印象が近接するにつれ、彫る量も1ミリ以下になる。この段階で垂髪を付ける。ただ表面を綺麗に整えるということではなく、緻密な部分を意識しすぎて、全体感を損なわないよう注意しながら、最後まで、形を追う姿勢で仕上げて行った。本研究では、木地仕上げとしての美しさを表現するために、あえて玉眼嵌入まで進めずに彫眼のままとした。

 

5、まとめ

 本像は、定朝様の十三割法注2での木割りや、錐点、矧ぎ方の特徴から、初期慶派仏師の作と推測され、慶派特有の量感は未だ、顕著にみられない。衣文の彫りも浅く、清々しい形と、穏やかな緊張感を感じさせる像である。

 本像の構造上の特徴として、髻を連結する丸ホゾが頭部と一材で彫出されていることが挙げられる。そのとおりに模刻した結果、ホゾ制作及びホゾ穴を彫る手間が省ける事や、ホゾを把手として効率的に彫り進めることができたが、ホゾが妨げになり髻の設置する面を平らにするのが困難であった。こうした特異な構造の理由は判然としないが、強度を目的として丸ホゾを一材で彫出したとは考えにくく、むしろ髻と本体との一体感を強めようとする意識があったのであろうか。

 本像は何らかの理由で二回割り首がおこなわれている。首周りに近い方の割り首は通常どおりできたが、首周りから遠い方は頭部を外している状態で、3センチ程の厚みを割り剥ぐのは困難で、慎重に鏨を入れたが途中で割れてしまった。原本にも割れが確認できるため、同様の方法を行ったと考えられるのではないか。実際に2回割首を行ったが、明確な理由の判明には至らず疑問が残るため、今後の研究に委ねたい。

 他にも、腕や肩でマチ材を入れて修正され、彫り直し、修正がいくつか見られ、全体的に探りながら、試行錯誤されているように推察される。本像模刻を通して、先人の様々な工夫あとと仏像への想いが、刃物研ぎに始まり、初めての割り矧ぎなどの技法に試行錯誤した想いと重なり、単に形の模刻というだけでなく、仏像を造る難しさとともに、仏師の想いも追体験できたように感じた。

 最後に本像模刻にあたり、ご支援して下さいました浄瑠璃寺様、ご指導頂きました多くの先生方に心より感謝申し上げます。


注1:錐を使い、正中線や、髪際、顎の先端など位置を表す部分に座標点を付けておく作業を錐点という。

注2:定朝様と運慶様とあり、髪際から顎の先端を一つとし、髪際高を五つとするのは同様だが、運慶様は身長を十割にし、定朝様は十三割としている。そのため、定朝様は膝張が白毫高と等しく、運慶様は髪際高と等しい。


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