興福寺 八部衆立像のうち
乾闥婆像 模刻制作

修士課程 小沼 祥子

<研究概要>
 本像は天平6年(734)に光明皇后が母橘三千代の一周忌に創建した西金堂に安置された脱活乾漆で造られた八部衆立像のうちの1躰である。しかしこの技法は天平時代をピークに衰退し、平安時代以降消滅した。そのため、技法の詳細は未解明である。本研究では、本像の現状を模刻制作することで、この技法を習得し、乾漆像特有の表現への理解を深めることを目的とした。


《本研究を通して》
乾漆像の魅力は、漆に木粉を混ぜた木屎漆による表面の塑形である。耳たぶほどの柔らかさで粘土のように扱い、独特の柔らかさが表現できることにある。
 本研究で使用した椨(たぶ)の葉の粉末を用いた木屎漆は、滑らかで塑形しやすく、天平期の木屎漆に近いとされている。しかし、漆の量によりかなり強度が左右され、漆の量が少ないとひび割れが入りやすいことも分かった。本像が1300年近く経た現在まで形を保持していることから、かなりの量の漆を椨粉に混ぜ使用しているのではないかと思われた。また、竹篦で一度に盛り上げて成形することは難しく、竹篦等だけではなく、素手で直接粘土のように扱って独特の柔らかさと形の張りを表現しているのではと実感した。
制作工程を追体験するほど、本像が高度な技術で丁寧に造られており、乾漆技法でしか出し得ない柔らかな表現があることを改めて実感した。脱活乾漆技法はごく短期間に用いられた技法であるが、乾漆像制作に卓越していた多くの工人が存在し、盛んに乾漆像の造像が行なわれていたことを想像させた。
 本研究では、東京国立博物館と九州国立博物館で開催された「国宝阿修羅展」に本像が展示され、背面部などを間近に観察することができたのは幸いであった。また、九州国立博物館での会期中、会場近くに2ヶ月間滞在し、毎日通っては実像を拝観し、制作を行うという大変貴重な経験もすることができた。今後、糊漆や木屎漆などの新しい配合の研究の余地があると共に、新制作の造形素材としても生かして行きたいと感じている。


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