個人蔵
不動明王半跏像 修復及び模刻制作

修士課程 杉浦奈央美

<研究概要>
 本研究では、本像の修復及び模刻制作を通して、鎌倉時代の彫刻制作の技術、考え方を習得することを目的とし、また、仏像制作の理解を深め、修復者としての知識と技能を高めることを目指した。模刻制作においては造形的な追及を優先し、古色仕上げは行わず木地仕上げとした。
本像は、彫刻文化財の保存修復研究の対象として、当研究室に寄託された。写実的な形状や衣紋の表現などが破綻なく丁寧に表現されており、鎌倉初期の制作を感じさせる像である。構造はヒノキ材の一木割矧ぎ造りで、頭体幹部は木芯を除いた状態で20cmほどの角材が使われていて、その他に15個ほどのパーツが組み合わされている。
模刻制作では、エックス線写真などを頼りに、大まかな構造から木芯の外し方や木目の方向までを、できるだけ実像と同様にあわせた。制作途中、粗彫りから形のピントが合わせるまでがなかなか到達できず四苦八苦したが、様々な計測方法を試して行くうちに形の追い方がつかめてきて、面白さが増していった。
長期にわたり、鎌倉時代の実像と向き合う経験ができ、毎日保管庫から像を運び出す時は常に緊張し、重大な責任感を感じながら研究に取り組んだ。本物を観察しながら模刻制作をしていると、彫刻的な魅力の元となる、作者が表現しようとした造形感覚を時折感じることができた。本像を真上から観察した時、膝前を基準として、両胸、両肩、顎、両眼、前髪の面が少しずつ歪んでいることに気づいた。しかし、それは一定の間隔でずれているのではなく、作者が意図したずらし方であり、力強さや生命感、緊張感を生み出す造形感覚のひとつだろうと感じた。
 大変恵まれた環境で、このような経験ができたことに深く感謝しており、今後の修復活動に生かしていきたいと思う。

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