奈良国立博物館蔵
「獅子」 ─ 収蔵品番号 1311-0─

井村香澄

〈研究概要〉
 本研究は、鎌倉時代に製作されたとされる本像の模刻研究を通じ、精密な調査が行われていない本像の構造を検討したうえで、技法の習得と表現方法を理解することを目的とする。
〈本像について〉
 本像は、もともと、文殊菩薩坐像の獣座として作られたものとみられる。寄木造であるが、表面の彩色層が良好な状態で保存されているため矧ぎ目を確認することが難しい。さらに、奈良国立博物館に寄贈されて以来大きな損傷がないことから、修復および明確な構造解明につながるような徹底した調査がなされていない。
〈本研究にあたり〉
 本像同様の獣座としての獅子の構造の多くは一材で作られた胴部を四肢が支えるもの、または前体部と後体部に胴部が挟まれる作りのもののどちらかに分類されるものが多いが、本像は自身の目視調査のみを参考にどちらの構造にもあてはまらない木取りであると解釈した。腹部に現れる体部の矧ぎ目は障泥や反花によって隠され、脚部と体部が一材であることで強度が保たれるような今回の構造は理に適ったものであると感じた。
 空想上のモチーフを実在感あふれる表現であらわされた本像は細かく観察しながら模刻することで、骨格や筋肉が制作当初身近にいた動物をモチーフとして制作されたであろうことを感じた。障泥も本来の布という素材を表現しようとごく薄く作られていることから、隅々まで細かな観察に基づいた作者の姿勢を窺うことができた。

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