京都府 禅林寺(永観堂)
「阿弥陀如来立像」

田之上愛

〈研究概要〉
 本像は、禅林寺の阿弥陀堂に「見返り阿弥陀如来立像」として安置されており、全国でも類例は少ない左側に振り向いた姿の阿弥陀如来立像である。平安時代後期作と思われる本像の構造は複雑であり、鎌倉時代に繋がる構造・技術が集約されている。
 本研究では、できる限り本像と同じ技法で模刻制作を行う。本像の特徴である複雑な構造や技法を一つ一つ追体験することで、実作者の考えに触れ、理解を深めることを目的とする。
〈本像について〉
 本像は、京都府にある禅林寺の阿弥陀堂に「見返り阿弥陀如来立像」として安置されている仏像である。像高は77.6㎝。平成11年に国指定重要文化財に指定されている。
〈制作所見〉
 原本像の右袖の構造は皺に沿って別材を矧ぎ寄せている。これは鎌倉時代以降に見られる構造であるが、原本像は構造的に先行した作例といえよう。また、右袖外側を別材にすることで、取り外しが可能になり、腰・脚部の彫刻が容易となった。
 本研究では、伊東氏の先行研究における資料、今回の熟覧調査で得られた3Dデータ等から、原本像は襟に沿って割矧いでいると推定し、襟に沿って割矧ぐことを試みた。その結果、右体幹部には原本像とほぼ同じ箇所に亀裂が生じた。それに対して原本像の左体幹部には亀裂が見られない。 よって筆者は、顔正面を含んだ左体幹部材では、鑿で叩いて割り離すのが困難な箇所では亀裂が生じないように小刀を用いて襟に沿って切り離すことにした。これにより左体幹部材は、亀裂が生じることなく割矧ぐことができた。これらのことから筆者は、原本像作者は同様の問題を割り離さずに切り離して左体幹部の胸部周辺部を割矧いだと考える。
〈本研究にあたり〉
 本模刻制作を通し、原本像の構造の複雑さには一つ一つに意味があることを痛感した。その中には原本像作者の試行錯誤も見受けられた。また、衣の表現は写実的であり、原本像作者の高度な技術と洞察力に圧倒された。

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